朝食に「ピザ・トースト」を食べて、子供達が元気に学校へ向かう。
日常の微笑ましい光景だと思うと同時に、貧乏だった学生時代を思い出す。
喫茶店でウェイターのアルバイトをしていた時、
マスターの作る「ピザ・トースト」をお客さんに運びながら、
「食いてー」と心の中で涎を垂らしていた。
「食えばいいじゃん」と、簡単に、浜っ子ぽいセリフを吐くお方もいるだろうけど、
いかに食い物に金をかけずに暮らしていくか?頭脳の80%を費やす大命題、
貧乏学生のオレにとっては、「ピザ・トースト」も高級品だったのだ。
「いつか自分で作って食うぞ」と、密かな野望を抱き、
マスターの調理姿をホールから覗き見、材料の種類や調理方法を頭に刻み付けていた。
「塗って、乗せて、焼く」だけなので技と言う程でもないけど、調理方法を知るだけでも感動ものだ。
ある日、
バイトの帰りにスーパーに立ち寄り、いつものように、インスタントラーメンを中心にカゴに詰めていたが、
その日は、「食パン、ピーマン、玉ねぎ、ベーコン、ピザソース、チーズ」が加わった。
いきなりだけど、「ピザ・トースト」制覇を決心したのだ。
四畳半一間、台所半畳の汚い部屋に戻り、材料を刻み始めてから気付いたことがあった。
オレの部屋には「オーブントースター」が無かったのだ。
上から二枚縦に突っ込む、一般的なトースターしか無い。
しばし、そのトースターを眺めながら思案した結果、
「トースターを横にすればできるかも」と閃いた。
食パンを薄く切り、ピザソースを塗って細かく切った材料を乗せ、チーズを被せる。
横にしたトースターに、幅がギリギリではあったけど、なんとか収まった。
「オレって天才かも」と、
テレビを見ながら焼きあがるのを待った。
しばらくして「チンッ」と軽快な音がした。
テレビからトースターへ目を移すと
四角いパンがが空中を舞い、半ひねりでカーペットに落ちていくではないか。
まるで、オリンピックの体操選手が鉄棒でフィニッシュの演技をするかのように・・・。
上からパンを入れるトースターはパンを支える中の台がバネ式になっていて、焼きあがると「ポンッ」と跳ねて出てくるものだ。
無残にも、チーズ側を下にして緑のカーペットに張り付いている四角いパン、
「どこが天才だよ」
一人つぶやきながら、静かにカーペットからパンを引き剥がした。
溶けたチーズに、ベーコンや野菜と一緒に張り付いた足の毛やゴミ、
丁寧に取り除き、当然のように夜食とした。
そんな貧乏時代にバンドの課題曲としてこの曲を選んだ。
Cから始まる循環コードで簡単だからという理由で選曲したけど、うまくいった記憶がない。
それどころか、ベースの暴走に腹を抱えて笑った思い出の曲だ。
夜中に一人で、チーズにくっついた、ふにょふにょの毛を一本一本引き剥がし、
薄っぺらいピザトーストを頬張るあの時のオレにピッタリな曲かもしれない。
The Police So Lonely (live)