「立派な実習室で毎日のように繰り返された漫才のような世界」
オレの通っていた職業訓練校は、ハローワークから紹介された公立の学校だった。
民間委託もあるようで、必ずしも公立学校で訓練するわけでもないみたい。
新聞の募集広告を見て「左官を教える学科がある、面白そう!」と、
詳しく調べもせず興味本位のみで申し込んだので、
どいう趣旨のどういう団体が運営しているのかも全く知らなかった。
専門学校や塾に通う程度のラフなスタイルかと思いきや、
高校進学に失敗した16歳の少年達に混じって、
公務員先生と非常勤の職人先生の狭間で、
意味も無く怒られる、少しは意味があって怒られる、かなりの意味で怒られる、
つまり、怒られてばかりの毎日で、
まるで少年院のような学校だった。
公務員先生と職人先生の組み合せは、どう考えてもうまくやれるとは思えなかったが、
案の定、先生同士のいざこざは絶えることがなかった。
公務員先生2名、職人先生2名の4名態勢なのだが、
2対1対1的な、タイヤの形や大きさが歪に異なった車のように、走る度にガタガタしていた。
先生同士で日常の会話を嫌っていて、連絡不足は日常茶飯事、
生徒に伝わってないことで生じた準備不足も、生徒がいつも怒られると言う酷さ。
「前にもそう言う話はしましたでしょう」
「聞いてないし、この日程では無理がある」
「何年ここで教えているんですか?毎年同じことで揉めてますよ」
「そう言われても中途半端になってしまう、この日程じゃちゃんと終われない」
「ちゃんと終わらなくてもいいですよ、できるところまででいいじゃないですか」
「そんな仕事のやり方があるか、仕事はちゃんと終わらせるべきだろう」
「ここは仕事の場ではなくて、勉強させる所ですよ、仕上がりを気にする必要は無いでしょう」
「仕事を教える場所だから、適当なやり方はさせられないんだろう、最後までちゃんとさせるべきだ」
いきなり生徒の前で大声で怒鳴りあう公務員先生1名、職人先生1名、
会話の内容で、どちらが公務員先生の言葉でどちらが職人先生か?すぐに判ると思う。
ある20代後半の生徒、
「あ~、もう耐えられない、普通、生徒の前で先生同士揉めるか?」
ある30代手前の生徒、
「いつものことやしぇー、笑わす(いつものことさ、笑わせるけど)」
そしてオレ、
「今日はまた激しいな~、このとばっちりはわったー(オレたち)に来るな」
淀んだ独特の空気を残し先生同士が離れた後、
職人先生に聞いてみた。
「何揉めてるんですか?」
「あー、やってられるか、こんな仕事、辞める前に必ずあれを殺すからな!」
最高!なんて最高なセリフだ。
わかる?この楽しい雰囲気!
この後、当然のように職人先生は機嫌が悪く、煙草を吸いながら道具を蹴飛ばし、
何をやっても怒鳴られるオレたち生徒がいた。
「I Won't Back Down」って「一歩も引かないぜ」って意味のようで、
あの職人先生に捧げたい。
トム・ペティーじゃなくて
「Johnny Cash」の「I Won't Back Down 」